デジタルでビジネスを変革させる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に取り組みたいと考える、経営者の方も多いのではないでしょうか。もともと海外と比べてDXの取り組みが遅れていると言われる日本です。経済産業省も「2025年の崖」と呼びDXの遅れを警告していました。
「2025年の崖」とは日本でDXが進まず国際競争力が落ち、2025年以降年間で最大12億円の損失が出るというものです(※1)。コロナ禍の影響もあり、多くの企業がビジネスの変革を迫られるいま、日本でもDXを推進する企業が急増しています。ただ日本では「社内にITやデジタルに強い人材がいない」「既存システムが複雑すぎてDXを実現できない」という課題に直面する事例も多いようです。
こうした課題の解決策として注目されているのが、外部人材の活用です。IDCが行った調査によれば、DXに取り組む会社の約8割は何らかの外部サービスを利用しています(※2)。 特に注目されている外部サービスといえば、DXコンサルティングでしょう。特にITやデジタルに詳しくない会社がDXを推進するとなると、DXの知識と経験を持つDXコンサルタントが強い味方となるはずです。とはいえDXコンサルタントの支援を受ければ解決とはいきません。成功させるには、依頼側がDXコンサルに何を依頼できるのかを理解しておく必要があります。
そこで、DXコンサルへの依頼と考える経営者へ向けて、DXやDXコンサルタントの基礎知識とあわせ、国内事例や支援を受ける時の注意点を解説します。
1.DXとは?
DXとは、IT化やデジタル化だけを行うのではなく、デジタル技術を応用し、日本社会やビジネス、生活スタイルなどに変革をもたらすものです。
デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略称で「デジタル変革」と訳すこともできます。DXの”X”と表記されている理由は、英語圏では「トランス」をXと略して使用しているためです。
なお、2022年9月に経済産業省が改訂した「デジタルガバナンス・コード2.0」では、DXを以下のように定義付けしています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文、風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
引用:経済産業省
このようにDXは、厳しさを増すビジネス環境の中、業務改革や企業風土の変革を通じ、企業の市場での優位性を確立することが目的です。
DX化の正しいあり方
DX化はデジタルモデルを変革することを意味しており、単にデジタル技術を導入して終わりではありません。私たちの周りにある製品やサービスなどを、より良い形へ変化させる「社会の変革」こそが正しいあり方と言えます。
社会の変革とは身近な具体例でいうと、次の通りです。
- 急激に利用者が増えたオンラインショッピング
- 家電製品のスマートホーム化
- スマホを利用したデジタル決済
数年前とは見違えるほど快適な生活を送ることができるようになったのは、生活の中におけるサービスや商品がデジタル化されたことが大きく関係していると言えるでしょう。
また、ビジネスにおいても効果を発揮しています。
- AIを活用したデータ分析による需給予測
- 属人的作業のIT化によるヒューマンエラーの防止
このことから、DXが既に企業の経営に寄与している状況が伺えます。このように、私たちの生活はDXにより多くの恩恵を受けています。しかし注意しなければならないのは、DX化を成功させるためのIT化やデジタル化は手段に過ぎず、目的ではないということです。
DX化の正しいあり方を再認識し、企業のビジョンや戦略に落とし込む必要があります。
DXコンサルタントの役割
DXコンサルタントは、クライアント企業がDXを導入するためのコンサルティングを行うコンサルタントです。ITやデジタル技術を活用して、プロセスの変革を行い、競争力を高めるための支援を行ってくれます。
主な提供業務内容は、下記の通りです。
業務内容 | 詳細 |
---|---|
新規事業戦略の立案 | 市場の需給予測、現状分析、実行支援など計画全般のサポート |
既存事業の見直し | 業務効率化や生産性向上に向けたDX化サポート |
システム開発 | システムの選定、導入、サポート |
組織作り | プロジェクトチームの編成や部門の再編成など |
DX人材の育成 | デジタル技術の教育支援(専任担当者の外部登用など) |
単にITやデジタル技術の導入をサポートするだけではなく、ビジネスモデルの変革や企業の組織改革に合わせて、DX化の支援を受けることが可能です。
2.DXコンサルタントのニーズが急増している背景
DXは漠然としたところもあり「経済産業省の定義を読んでもよくわからない」という経営者の方も多いかもしれません。2021年8月に国内で行われた調査によると、「DXを理解している」と回答したビジネスパーソンは23%しかいませんでした(※4)。 新しい概念のため、なかなか理解が進んでいないのが現状です。
しかし、DXへの基本的な理解がなければ、DXコンサルタントを選ぶこともできません。またDXコンサルタントに依頼した後も「コンサルの提案や助言は自社で実現できるか?」「自社の事業計画や戦略と整合性があるか?」など社内で判断すべきことも多くあります。 DXプロジェクトの推進にはDXコンサルタントの存在も重要ですが、まず経営層や社内メンバーがDXを正しく理解することが必要です。
・DXは単なるIT導入とは違う
「人手による業務をデジタル化して、コスト削減や効率化ができればDXは成功なのでは?」と考える方も多いようです。しかしこれは本来のDXではありません。DXは経済産業省の定義にある通り、「ビジネスや組織の変革につなげる」ことがゴールだからです。
ある不動産会社の事例では、AIを使った不動産査定システムを開発し、オンラインで査定額を自動で提示を始めました。このサービスによって人件費削減を実現しただけではなく、従来少なかった若年層や海外駐在者からの査定依頼が増えたそうです。またオンライン査定サービスにより詳しい顧客データの収集に成功し、データを活用した新規事業も検討しています。AIによって新たな顧客獲得に成功、ビジネスの変革につながったDX事例と言えるでしょう。
ここまで理解すれば、ITツールやサービスの導入だけ進めるコンサルタントは要注意ということがわかります。IT化はあくまでDXの1ステップであり、その先にある「ビジネスや組織をどう変革して収益を上げるか?」という戦略が求められるからです。
日本企業のDX化が進まない理由
日本企業は諸外国に比べ、DX化が遅れているとされています。その原因として上げられる、実際に企業が直面するDX化が進まない理由4つを確認していきましょう。
1)どこからDXを進めればいいかわからない
ITやデジタルに関わりの少ない会社では、DXに取り組みたいと思っても「何から始めればいいかわからない」という経営者の方も多い方が多く見られます。他の会社の事例を見ても自社に応用できるとは限らないため、思った通りにDX化を進められないことがほとんどです。
こういったケースではDXコンサルタントに依頼することがおすすめです。DXコンサルタントは、自社が抱える課題をスムーズに整理して可視化してくれるため、まず何からすればいいかわからないという方はぜひ利用してみるとよいでしょう。
2)どのようなIT技術やDX人材が必要かわからない
DXでは、AIなど新しいIT技術を活用できるかが重要なポイントです。そのため最新のIT技術に詳しく経験豊富な人材がプロジェクトを進める必要があります。
しかし、経営者や社内メンバーが高度なITスキル・経験を持つというケースは少ないことが多いでしょう。またDXでは、ビジネス変革のために現行のシステムを捨ててゼロから開発するケースもあります。こうなると付き合いのある業者では対応できないケースも出てきます。どこへシステム開発を依頼すればいいか悩むこともあるでしょう。DXコンサルタントなら、DX推進にどんな技術、人材が必要か適切なアドバイスを行ってくれます。
3)DXに必要な要件定義ができない
通常の社内システム開発であれば、社内や取引先にヒアリングをして要件を定義することができます。一方DXは新たな技術を使ってビジネス全体を変革するものです。そのため、市場や顧客のトレンドに合わせた要件定義が必要となります。
また、一旦開発したものをすぐに修正する、といったことも増えてくるでしょう。 従来の要件定義では、DX推進が難しいのも事実です。
そこでDX経験を持つ専門家として、DXコンサルタントのサポートが必要となります。
4)素早い判断や軌道修正ができない
DXで成功するには、社会の変化や顧客や競合他社などの動きに素早く対応する必要があります。状況が変化するスピードが速まっている今、最初に決めたDX 戦略の見直しや軌道修正を迫られることも多いでしょう。またDXでは新しい技術を取り入れる姿勢も求められます。
つまりDXを推進するには、さまざまなデータを分析する力とあわせて、判断力や社内に説得できるリーダーシップを持つ人材が必須です。とはいえ社内メンバーではスキル不足というケースも多いでしょう。また、社内メンバーが推進役になると、従来の上下関係が影響して意見しづらいこともあります。
一方でコンサルティング経験の豊富なDXコンサルタントなら、状況の分析や判断を担うことも可能です。また外部の専門家という立場によって、むしろ社内の理解を得られやすい可能性もあります。
DXコンサルタントを導入するメリット
DX化は、専門的な技術や知識が必要になることから、自社の人員だけで行うには少々難しいです。
DX化の必要性はわかっていても、自社で全てを行うのが難しいと考えている企業は、DXコンサルタントを導入してはいかがでしょうか。DXコンサルタントを導入することで、次のようなメリットが得られます。
自社の問題点を客観的な視点で整理することができる
自社の問題点を自ら改善しようとする場合、これまでの常識や慣例に縛られて主観的な議論に終始してしまいます。
しかし、DXコンサルタントは客観的な視点で問題点を整理してくれるほか、社内の利害関係に囚われず、上層部や現場双方の意見を集約し、立場の違いを超えて解決案を提案してくれます。
外部の人間だから言える忌憚ない意見は、新たなアイデアに繋がることもあるでしょう。
ノウハウやスキルを学べる
DXコンサルタントは、DX人材育成プログラムを整備し、効率的にノウハウやスキルを学ぶ機会を提供してくれます。
ノウハウやスキルを学ぶメリットは、次の通りです。
- 企業の実情にあったシステム開発、運用ができる
- 問題点への即時対応
社内の人間がシステム開発や運用に関わることで、企業の実情を考慮したDX化が可能になります。たとえば、旧システムとの互換性や属人的作業の自動化など、社内に精通した人間でなければ対応が難しい事案を処理できるでしょう。
情報収集やデータの分析、問題点への対応を自分達で行えるため、第3者が介入することなくスピーディーに事が進みます。
プロの意見の元でDX化を進められる
DXコンサルタントを導入することで、プロの意見をもとに進められるため、早期の業務改善に繋がり、新たなアイデアや価値観を生み出しやすくなるでしょう。
ただし、DXコンサルタントの意見を丸吞みし、DX化を進めるのはおすすめできません。全てを任せてしまったばかりに、DX化に失敗した事例はよくあります。
DXコンサルタントはあくまでもパートナーとしての位置付けでしかなく、最終的な決断や実行は自ら行うことが重要です。
DXコンサルタントへ依頼する時に注意するポイント
DXコンサルタントに依頼する際に注意しておきたいポイントを4つまとめました。
これからDXコンサルタントへ依頼しようと考えている人は、ぜひチェックしてくださいね。
1)経営層が主体となって社内に強くコミットする
DXはビジネスの変革という大きなミッションを持つため、社内の一部部門だけで成功させるのは無理があります。そのため、社内の各部門や社外のステークホルダーにも協力してもらう必要があります。 周囲の協力を得るには、DXへ取り組む意味や効果について強く社内にコミットさせておくことが必須です。経営層がDXを推進する必要性やビジョンを明確にして、社内に浸透させておきましょう。
また、外部からDXコンサルタントを呼ぶとなると、社内のシステム部門などから大きな反発が起こることも予想されます。経営層が率先して、DXコンサルタントを導入する目的や重要性を社内に浸透させていく必要性が高いです。DXコンサルタントが持つスキルを発揮するには、環境づくりも大切です。
2)社内のDX推進担当者をアサインする
DXがうまくいかなかった事例の中には、現場や取引先がITやデジタル技術に慣れていないため変革が実現しなかったケースもあります。現場やステークホルダーとの調整は、社内のDX推進担当者によるところが大きいでしょう。
DXコンサルタントが力を発揮するためにも、DX担当は重要なポジションとなります。DX担当にはITやデジタルの知識も必要ですが、社内事情に精通しているほか、ステークホルダーとコミュニケーションが円滑にできるスキルが求められます。
DXコンサルタントと社内の橋渡し役になれる人材を、担当者としてアサインしましょう。もし、いない場合は、若手を育成することも考えるべきです。 ただしDX担当にすべてを押し付け、丸投げしてしまうのは危険です。負荷がかかりすぎてしまい、かえってプロジェクトが頓挫しやすくなります。負荷に合わせてサポートできる人材をアサインするなど、体制を整えましょう。
3)自社が目指すDXの規模・レベルに合うコンサルタントを選ぶ
DXといっても企業によって課題が大きく違うため、案件の規模やレベルも異なります。このため、DXコンサルタントを選ぶときは、得意分野とあわせて自社が目指す規模に近い経験があるかという点も意識しましょう。大企業のDX案件をメインとするコンサルタントの場合、自社の規模に合う提案が出ないこともあります。
また、中堅企業のDX推進では、経営者や担当者とコンサルタントの相性も大切です。優秀なコンサルタントであっても、自社のレベルに全く合わなければ会社とコミュニケーションはうまくとれません。DXについて経営者や担当者のレベルに合わせた解説をしてくれるか、といった点で相性をチェックしましょう。
4)コンサルタントの業務範囲を理解し、丸投げしない
上述したように、コンサルタントはアドバイスや助言を行うのが主な業務です。実務も含めて依頼するケースもありますが、あらゆる業務を任せる存在ではないことを認識しましょう。頼りすぎないためにも、コンサルタントに相談する前に課題の整理やゴール設定を社内でしておきたいところです。
また、コンサルタントへ依頼した後も注意が必要です。コンサルタントのアドバイス通りに進めれば成功するとは限りません。「現場で実現可能なプランか」「ステークホルダーの協力は得られるか」など、社内視点での判断が必要なこともたくさんあります。
あわせて注意したいのが、短期で考えないことです。DXでビジネスの変革につなげるには、どうしても時間がかかります。中長期で考えるのが基本のため、DXコンサルタントへ依頼した場合でも社内で中間成果を評価する必要があります。
さらにコンサルティングを継続するかどうか、判断するケースも出てくるでしょう。こうした評価や判断を社内で行うためにも、「コンサルタントに丸投げしない」という意識は重要です。そのためにも、経営層を含めた社内全体でDXについての理解を深めておく必要があります。
DXコンサルを成功させるポイント
DX化の取り組みにおいて、クライアント企業の実情や特性を考慮した進め方が重要です。成功させる2つのポイントを理解しながら進めましょう。
プロジェクトチームの組成と社員の意識付け
適切なプロジェクトチームの組成がDX化には不可欠とされています。そこで重要なのが、チーム内の役割を明確にすることです。
ITアドバイザリー企業として有名なガートナージャパンが提唱した「DXの推進に必要となる5つの役割」が、DXを成功させる上での鍵を握っています。DXの推進に必要となる役割は、次の5つです。
ビジネス系プロデューサー (ビジネス・アーキテクト)
企業が目指す最終ゴール(目標)やビジネスモデルの提言、プロジェクトの全体的な進捗管理などを担当。また、経営層や各部門、社外の関係者との橋渡し役としての役目も担う。
テクノロジ系プロデューサー (テクノロジ・アーキテクト)
IT化やデジタル化の技術面の責任者。デジタル技術導入における影響の分析や特定、システム運用後の影響の予測などを担当。
テクノロジスト (エンジニア)
テクノロジを現場で活用し開発業務を行う担当者。IOTやAIなどの新規領域に限らず、通信ネットワークやセキュリティなど、既存領域の開発も担う。
デザイナー
ソリューション開発、アプリケーションのUX(ユーザーが得られる体験)、サービスのデザインを担当。ビジネスやクライアント目線でアプローチし、サービスの開発やプロセスの策定などを担う。
チェンジ・リーダー
DXによって、ビジネスモデルや業務プロセスなどの変革を担う推進役(変革人材)。社内外の関係者を巻き込み、行動変容に向けて、施策の契約や展開を担う。
これらの役割を担う社員が中心になってDXを推進していきます。しかし、DX化を成功させるためには、役職を持たない社員も含めて、会社全体が取り組める環境作りが重要になるでしょう。
特に重要なのは意識付けです。全従業員が全社一丸となって進めるためにも、経営層が積極的にDXのメリットを周知し、意識付けすることが大切と言えます。
社内情報の洗い出し
スピーディーに社内の実情を理解してもらうためには、社内情報を洗い出した資料を作成、提供することをおすすめします。
DXコンサルが、ゼロからクライアント企業の情報を収集するには時間を要します。事前に社内情報をまとめておくことで、よりスムーズにDX化が行いやすいでしょう。
DXコンサルタントが手掛けた成功事例5つ
DXコンサルタントにコンサルティングを依頼する場合「本当に経営課題を解決してくれるのだろうか」「費用に見合った効果が得られるのか」など、不安に思われる方は多いでしょう。
ここではDXコンサルタントを導入して、DX推進につなげた国内企業の5事例を紹介します。
- 資生堂は野村総合研究所(NRI)とタッグを組んでサブスクに参入
- ワコールはIBMとタッグを組んでオムニチャネル戦略を推進
- ソフトバンクはアクセンチュアとタッグを組み、BtoB向けオンラインイベントを開催
- ビューカードはアビームコンサルティングとタッグを組みAI与信システムを構築
- ライオンはNTTデータとタッグを組んでDMPを構築
1)資生堂は野村総合研究所(NRI)とタッグを組んでサブスクに参入
資生堂は野村総合研究所(NRI)と組み、DXを推進しています。IoTやAIなどのデジタル技術を活用した新しいサブスクリプションモデル(月額定額制)のブランド「Optune」を2019年に立ち上げました。これはスマートフォンアプリを使って肌の状態を分析し、分析データをもとに専用のIoT機器が肌に最適なスキンケア製品や量を提供するという仕組みです。
デジタルデータを活用することで、きめ細かなパーソナライゼーションを実現させました。
さらにこのブランドではサブスクリプション制を導入するなど資生堂として新たなビジネスモデルに挑戦しています(※7)。 残念ながらこのブランドは約1年で終了しましたが、資生堂ではその後もDXを推進しております。
2021年にコンサルティング会社のアクセンチュアと合弁会社を設立するなど、他社の支援を受けながらDXを加速させています(※8)。
2)ワコールはIBMとタッグを組んでオムニチャネル戦略を推進
下着メーカーのワコールはIBMなどのパートナーと一緒にDXプロジェクトを立ち上げました。
プロジェクトの結果、AI接客を本格導入した新たなスタイルの店舗を2019年東京にオープンさせています(※9、※10)。 ワコールでは商品が下着のため、従来の店舗ではユーザーが店員にサイズなどを相談しにくいことが課題でした。
そこでパートナー企業の技術をもとに5秒で採寸ができる独自の3Dスキャナーを開発。さらにAI接客を導入して、ユーザーが店員と直接対話しなくても買い物ができる店舗を設けました。
これはユーザーの利便性向上だけが目的ではありません。採寸データやAIによるおすすめ情報をECに連携させることで、実店舗とECを融合する「オムニチャネル戦略」の推進が狙い。パートナーの技術を活用することで、ビジネスの変革につなげたDX事例と言えるでしょう。
3)ソフトバンクはアクセンチュアとタッグを組み、BtoB向けオンラインイベントを開催
コロナ禍で対面でのやりとりが難しい現在、BtoBでも営業やマーケティングスタイルの変革が求められています。
こうした中でソフトバンクの法人マーケティング部門では、アクセンチュアをパートナーにDXを推進しました(※11、※12)。この結果、2020年にオンラインでのBtoB向け展示会を開催しております。オンライン化した最大の効果が集客力の向上です。このオンライン展示会の参加人数、視聴者数は、前年比682%と大幅にアップしました。オンライン化によって地域や時間などの制約を取り払うことができ、より広いユーザーへリーチできるようになりました。
またオンライン開催によって、視聴行動データを収集できるようになった点も注目すべきポイントです。IT化によって多くのデータを収集・分析して次のビジネスに生かすのもDXならではの考え方です。
4)ビューカードはアビームコンサルティングとタッグを組んでAI与信システムを構築
JR東本グループのクレジッドカード事業を手掛けるビューカードは、コンサルティング会社のアビームコンサルティングをパートナーに選び、DXを推進させています。ビューカードではパートナーを選ぶ際クレジットカード業界に精通しているかという点を重視したそうです(※13)。
ビューカードではアビームコンサルティングの支援を受けながら、与信業務にAI技術などを導入しました。システム化することで、スピーディーで厳格なカード利用限度額の設定が可能になりました。さらに限度額の上限引き上げを積極的に行えるようになり、カード利用の促進にもつながっていると言います。リスク回避と収益向上という2つの課題を同時に解決できたという点で、DXの成功事例と言えるでしょう。
5)ライオンはNTTデータとタッグを組んでDMPを構築
ライオンはより高度なデータ活用を目指し、DMP(デジタルマネジメントプラットフォーム)の構築に取り組んでいます。この開発でライオンがパートナーに選んだのが、NTTデータ社です。NTTデータは複数のツールを組み合わせたソリューションを提案しました。さらに社内教育や運用面でもNTTデータが支援し、スムーズなプロジェクト推進につながったと言います。
なおライオンとNTTデータは、2022年1月にDX推進に関する業務提携をスタートさせています(※14、15)。
【DMP(Data Management Platform)とは】 社内に分散しているサーバのデータを一元管理して、分析できるようにしたシステムの総称です。
多くのデータをもとに多角的に分析することで、従来気づかなかったポイントを発見できるようになります。またDMPがあれば専門のアナリストに分析を依頼せず、社内で手軽にデータ分析ができる点もメリットです。
データやデジタル技術を駆使してビジネスを変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)ですが、日本企業もコロナ禍などをきっかけに従来のビジネスに危機感を感じ、DXに取り組むケースが急増しています。
しかし日本ならではの課題もあり、DXを成功させることは簡単ではありません。 そのため自社内だけでDXを推進するケースはほとんどありません。大手企業の事例を見てもわかる通り、ほとんどの企業が外部のDXコンサルタントを導入し、支援を受けています。 国内でDXへの意識が高まる中、DX戦略の策定から運用業務まで支援できるDXコンサルタントのニーズも急増しています。
一方でDXコンサルタントの数は不足しており、今後さらに獲得競争は激しくなるでしょう。つまり、できるだけ早いタイミングで自社に最適なDXコンサルタントを探す必要があります。
そのためにはまず社内全体でDXをよく理解して、「自社にとってのDXの在り方」を策定することが最優先です。
DXを推進する基本の流れ
DXを推進するには、基本の流れを抑える必要があります。しかし、基本の流れは明確に定義されていないため、一般的なDXのプロセスをご紹介します。導入を検討している方は、ぜひご覧下さい。
【DXを推進する基本の流れ】
DX化によるビジョンの選定
DX化のビジョンを選定することで、企業としてのあり方がはっきりとし、DX化に向けた戦略が決めやすくなります。
ビジョンは社員の行動や判断の指針となるため、全社一丸となって同じベクトルに進むためにも、ビジョンの選定は重要と言えるでしょう。
また、ビジョンを見るだけで、企業がどのような未来を目指しているのか想像できます。
- 「普通の人々にコンピューターを届ける」Google
- 「僕らは未来を作るんだ!」Apple
- 「すべてのものが買えるお店」Amazon
- 「服のチカラを、社会のチカラに。」株式会社ファーストリテイリング
- 「21世紀を代表する会社を創る」サイバーエージェント
実際に有名企業が掲げているビジョンを見てみると、自社のサービスや製品の先に、どのような未来があるのかを表しているビジョンばかりです。自身の企業が消費者にとって、どのようなメリットを与えるのかを考えてみてくださいね。
なお、ビジョンは企業の目指すべき姿を表す指針になるため、DXコンサルタントなど外部の人間に丸投げするのはおすすめできません。
経営者が主体となって決めて自らが発表することで、社内浸透力も高く、社員の認識も合わせることができるでしょう。
管理体制を整える
決めたビジョンを元に管理体制を整えることで、DX化の推進を促進できるでしょう。
組織体制の見直しから適材適所の人選など、DX化を効率的にするためにも重要なファクターです。主な管理体制として、以下の3つのタイプがあります。
IT部門拡張型
既にあるIT部門の機能を拡張してDXを進めていく方法です。ITに精通しているメンバーで組織されているので、システム開発や保守、管理は比較的スムーズに進みます。
しかし、DXは単にデジタル化することを目的としていないため、各部門を統括する必要があるプロジェクトにおいては、ITに詳しいだけでは頓挫する危険性もあります。
事業部門拡張型
現場の仕事を熟知している事業部門が主導し、機能を拡張させることでDXを推進します。現場の問題や課題をボトムアップで吸い上げ、現場に則した改善につながるため、抵抗なくDXを進められるのがメリットです。
ただし、事業部門にITやデジタル技術に詳しい人材がいないと、実現可能性が低い提案がなされ、DXが進まない可能性もあります。
専門組織設置型
既存の部門に依存するのではなく、DXに特化した専門組織を設置する方法です。社内に優秀な人材をアサインするか、社外からDXに精通した人材を登用することで、DXを推進する部署を新たに設置します。
DXを成功させている企業の多くは、専門組織設置型を採用していますが、デメリットもあります。たとえば、現場サイドの意見を取り入れないままDXを進めた場合、既存部門との関係が悪化することも考えられます。
また、新たな人材の登用や他部門からのアサインにより、人件費が増大する可能性もあるでしょう。
以上の3つから、企業の実情を考慮した上で管理体制を整備することをおすすめします。
企画を行う
ITやデジタル技術を活用して、具体的なアクションプランの方向性を検討しましょう。
DX化はビジネスモデルの変革という難しいテーマを扱うため、方向性を誤ると期待される効果を発揮できない可能性もあります。解決すべき課題を洗い出し、デジタル技術を手段として活用することで、具体的な成果をイメージできる企画を考案すると良いでしょう。
なお、企画を行う際は、検討事項として、戦略、導入するシステム、達成までのロードマップ、想定される費用対効果なども同時に決めることが大切です。企画実行前に細かな部分を明確にしておくことで、現状の確認や、企画の成果に合わせた軌道調整も行いやすくなりますよ。
企画の実行
経済産業省が公開した「DXレポート2」によると、DXを成功させるパターンの策定として、3段階のフェーズに分けることを明示しています。
ただし、必ずしも順番を守る必要はないため、各企業の現況に応じて、必要なフェーズのみを実行してみましょう。
フェーズ1:デジタイゼーション(アナログ、物理データをデジタル化)
これまでに蓄積したアナログ、物理データをデジタル化(デジタイゼーション)することです。業務プロセスを変更するわけではなく、単にデータの取扱いをデジタル化するイメージで捉えてください。
デジタイゼーションの具体例は、以下の通りです。
- 紙ベースの顧客リストをデータベース化(ペーパーレス化)
- オンライン会議ツールの導入(Zoom、Webexなど)
- デジタル端末の導入(スマホやタブレット)
デジタイゼーションを行うことで、作業時間の短縮が図られ、業務効率や作業効率の向上に寄与するでしょう。
フェーズ2:デジタライゼーション(業務のデジタル化)
次に実行するアクションは、業務のデジタル化(デジタライゼーション)です。業務プロセスをデジタル化することで、新たな価値の創出や付加価値を高めることができるでしょう。
デジタライゼーションの具体例は、以下の通りです。
- RPAを利用した事務作業の自動化
- IOTを活用した製造現場のモニタリング
- カーシェアリング
デジタライゼーションを行うと、プロセスに変化が起こり、業務効率化によるコスト削減や多様な働き方が可能になるとされています。
フェーズ3:デジタルトランスフォーメーション(DX化)
フェーズ1、2で実施したデジタル化を、横断的に展開するフェーズがデジタルトランスフォーメーション(DX化)です。言い換えると、ビジネスモデルや組織を変革させ、競争上の優位性を確立することを指しています。
デジタルトランスフォーメーションの具体例は、以下の通りです。
- タクシーの配車アプリ(ウーバーやディディなど)
- スマート家電(スマホと連携できる家電)
- サブスクリプション(定額サービス)
DXが成功すると、新規市場の開拓や顧客ニーズを満たしたサービスの提供など、企業の競争力はさらに向上するでしょう。
評価と改善
DX化を実行したからといって、終わりではありません。刻々と変化する社会情勢に適応するためにも、定期的な評価と改善が必要です。
経済産業省が作成した「DX推進指標」を活用すれば、どの程度DXが推進しているのかを自己診断することができます。その結果、DXの進捗を確認でき、次に何を行うべきか把握できるでしょう。
自己診断の進め方は、以下の通りです。
- DX推進指標で自己診断をする
- 自己診断結果を提出する
- 自己診断結果分析レポートを確認する
DX推進指標の取得および自己診断結果の提出先は、独立行政法人情報処理推進機構のホームページより詳細を確認できます。
まとめ
本記事では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義やメリット、進め方などをご紹介しました。日本を取り巻く環境は今後より厳しさを増すことでしょう。
企業に求められるのは、アナログ技術からデジタル技術への移行、より良い社会を創るための変革です。ただし、闇雲にDXに取り組んでも効果は見込めません。重要なのは、DXを進める上での基本的な流れを把握することです。
DXを推進する基本の流れ
- DX化によるビジョンの選定
- 管理体制を整える
- 企画を行う
- 企画の実行
- 評価と改善
なぜDX化を実行するのか、何をゴールとしているのかを明確にして、DX化を進めてみてはいかがでしょうか。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)
出典 ※1:D X レポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf ※2:国内DX支援サービスの需要動向調査結果を発表(IDC)
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ47548421
※3:デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン(DX 推進ガイドライン)(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf
※4出典:「DX」を理解している人はわずか2割 DXの理解度と取り組み状況を調査(士業とつながる・企業とつながる「Manegy」)
https://www.manegy.com/news/detail/4651
※5:デジタルトランスフォーメーション(DX)に成功している日本企業は14% DXのサイロ化を超えた包括的な戦略が成功のカギ~BCG調査(ボストン コンサルティング グループ) https://www.bcg.com/ja-jp/press/28october2020/14-percent-japanese-companies-succeeded-digital-transformation-comprehensive-strategy
※6:デジタル革命の本質:日本のリーダーへのメッセージ(McKinsey & Company)https://www.mckinsey.com/jp/~/media/McKinsey/Locations/Asia/Japan/Our%20Work/Digital/Accelerating_digital_transformation_under_covid19-an_urgent_message_to_leaders_in_Japan-jp.pdf ※7出典:資生堂ジャパン×NRI 最先端の皮膚科学とテクノロジーの融合(野村総合研究所) https://www.nri.com/jp/journal/2018/1003
※8出典:資生堂とアクセンチュアが7月に合弁会社設立 DX化を加速(WWD) https://www.wwdjapan.com/articles/1212923
※9出典:株式会社ワコール(IBM)
https://www.ibm.com/jp-ja/case-studies/wacoal
※10出典:5秒で全身を測定するワコール新型店舗 IBMワトソンが下着を提案(日経TREND) https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/00202/
※11出典:ソフトバンク:初のオンライン開催。「SoftBank World 2020」でマーケ&営業のDXを実現(アクセンチュア)
https://www.accenture.com/jp-ja/case-studies/communications-media/softbank
※12出典:11.9万人を魅了した「SoftBank World 2020」 完全オンライン開催成功の裏側(Marke Zine)
https://markezine.jp/article/detail/35959
※13出典:株式会社ビューカード(アビームコンサルティング株式会社) https://www.abeam.com/jp/ja/case_study/CS123
※14出典:データ活用で実現する「心と身体のヘルスケア」~生活者起点のビッグデータ×AIの可能性~(NTT DATA)
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2021/0413/
※15出典:NTTデータとライオン、DX推進で業務提携(日本経済新聞) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC067HW0W2A100C2000000/